番外 いだて、いでわ。黒脛巾。

いだて、いでわ。
政宗たちの時代、伊達が「いだて」と発音したのではないかという話がときどき出ますね。
ローマ教皇宛て政宗書状にIdateとあることが根拠として紹介されます。
それとは別に、ひらがなの資料もありますのでご紹介。
白石市文化財調査報告書第47号『片倉小十郎景綱関係文書』、はい、いつものこの本です。
これだと48ページの下から49ページ。保春院義姫の侍女から小十郎に宛てた手紙があります。「…しかもくろ川の事ハいたて御しつか二候間… 」この「いたて」は伊達でしょう。

同時代、「いだて」に加えて「いでわ」もあります。これはもっと後、慶長5年9月23日、出羽合戦中に義姫が留守政景宛に出した手紙の中にありました。
いてわのかみおやこも一年なふ満そくにかへり」この「いてわ」は点々が無いけれど「いでわ」、出羽ですね。翻刻全文が『水沢市史2中世』昭和51年 水沢市史刊行会 に掲載されています。
でもこの漫画では読みやすさを優先して、ルビは、だて、でわ、で行きます。

黒脛巾(くろはばき)
おやこんなところにこんな記述、というのがもうひとつ。

伊達の忍者集団黒脛巾組については、「同時代史料に根拠が見つからないので、江戸時代の創作であろう」というのが今のところの定説かなあ。掲載された本が明和年間の『伊達秘鑑』というのも一歩退かれる要因でしょう。これ、政宗へのファン心があふれる江戸時代の同人誌のようなもので、楽しむにはいいし、もしかしたら中にはいいネタも入っているのかもしれないけれど、このまま史料には使えません。

ですが、同時代に近い史料があることはあります。『木村宇右衛門覚書』です。政宗に関して黒はばきという言葉の、初出と言うならこれでしょう。この書は、9歳の時に政宗奥小姓として出仕した木村宇右衛門が政宗の言葉を書き記したものです。

『木村宇右衛門覚書』の内容については信頼できるものとかなり怪しいものがある、というのが『伊達冶家記録』編纂者の判断で、項目ごとに信憑性についての付箋があります。

v ここだけ言うと、木村さんがいい加減な人みたいに聞こえるので違う違う、補足説明します。木村宇右衛門が出仕したのが先程も書いたとおり、9歳。ここから政宗の死まで傍らにいます。政宗からすれば、9歳の子どもに語る話と、青年になった宇右衛門に語る仕事上の心得は別物です。それが、この本の中には混じって入っています。
中には政宗が語ったという、子ども向けのおとぎ話みたいなものも入っています。たとえば…意訳しますね。

…ある者が言うには、猷日上人という尊いお坊さんがいて、高野山に登る途中で駿河の清見寺に泊まった。見ると部屋の中には貼ったばかりの白い屏風がある。住職が言うには、「この屏風に絵がほしいのですが、この辺にはいい絵描きがいないので、誰か頼もうかと考えているのです」。「じゃあ私が描いてあげましょう」と、日上人は硯になみなみと墨をすり、十本ばかりの筆にたっぷり付けて両手に持っていきなり屏風を真っ黒に塗ってしまった。住職が怒って、「屏風はもういいから出て行ってください」というと、猷日上人は「お気に入りませんでしたか、仕方ない」と屏風に向かって手を三つ四つ打った。すると屏風から鴉が三、四羽はたはたと飛び出したので、住職はあわてて屏風を閉じた。屏風に鴉は二羽残った。この屏風は清見寺の宝になっている。

…という話です。これを政宗が語ったと書かれています。
で、藩の学者が宇右衛門の記録に付箋を付けている。「この話は信じられない(超意訳)」そらそうだ。私としては、両手に10本の筆と言うところに引っかかりますな。両手の指に挟める筆は8本だもん。
…これはそういう読み方をするんじゃなくて、10歳にも満たない小さな小姓達相手に政宗がおとぎ話をして喜ばせ、その様子を見て自分も楽しんでいる光景を想像するのがいいんじゃないでしょうか。
『木村宇右衛門覚書』について一番怪しいのは、政宗本人のうろ覚えやホラが混じっていることでしょう。まさか全部記憶してしまう子がいるとも思わずに…。
そして、宇右衛門は、政宗のどんな言葉の切れ端でも全部残しておきたかったのでは。

さて、この『木村右宇衛門覚書』のなかに、「黒脛巾の者」が出ています。
こっちはおとぎ話ではなく、郡山合戦の時と摺上原の時の話です。
ここに出てくる「黒脛巾の者」はおそろいの黒脛巾なんか身に着けていません。郡山合戦の時は笹蓑に菅笠で里人のまねをして…とあり、やったことは敵陣への潜入と放火です。摺上原の時にも前後を読むと敵陣地への潜入と放火だなあ。
これだけで隠密専門の忍者集団といえるだろうかは疑問です。放火は合戦の常。でも、政宗の口から黒脛巾という言葉が出たと、ここまでは認めていいんじゃないかな。
その先は、私はちょっとまだ考え中です。

資料を読むのって、こういう楽しみがありますよ。